上級編 4. Short Rate Models
4.4 Hull-White モデル
4.4.2 モデルから r(t) および ゼロクーポン債価格(の分布)を導出
θ(t) の導出過程の説明が長くなりましたが、次のステップにすすみます。
モデルで、未だ特定されていないのが、中心回帰強度 a(t) と Volatility σr(t) の関数になります。これらは、実際には、値を Calibration で求めますが、通常 Piecewise Constant な関数と仮定されます。これは3項Treeや有限差分法などにおいて、離散化した時間軸毎に定数を割り当てる為です。ここでは、解析プロセスをわかり易くする為、それぞれすべての時間で共通の定数 a, σr と置き、これらのパラメータも既に与えられたと仮定します。
一応これで、モデルが特定されました。
モデル(瞬間短期金利の確率微分方程式)が特定されたので、そこから t 時の瞬間短期金利 r(t) (の分布)と、t 時のゼロクーポン債価格 P(t,T) (の分布)を導出します。これも、Vasicek モデルでの解析プロセスと同じように、求めていきます。(John-Hull “Technical Note No.31, Option future and Other Derivatives”を参考にしています。)
Vasicek モデルでは dr(t) を積分して瞬間短期金利 r(t) を求めましたが、ここでは、前のセクションで θ(t) を求める過程の中で、r(t) を先に求めていたので、それを使います。その式は下記のような形でした。(4.14及び4.15式を再記)
r(t)=f(0,t)+∫t0(e−∫tua(s)dsσr(u)∫tue−∫sua(τ)dτσr(s)ds)du+∫t0e−∫tua(s)dsσr(u)dW(u)=f(0,t)+e−∫t0a(s)ds∫t0((e∫u0a(s)dsσr(u))2∫tue−∫sua(τ)dτds)du +e−∫t0a(s)ds∫t0e∫u0a(s)dsσr(u)dW(u)あるいは、g(t)とh(T)の表現を使うと
r(t)=f(0,t)+h(t)∫t0g(u)2∫tuh(s)ds du+h(t)∫t0g(u)dW(u)先ほど、a, σrは定数と置いたので、上記の式の積分が一部計算できます。その結果
r(t)=f(0,t)+e−at∫t0e2auσ2r∫tue−asds du+e−at∫t0eauσr(u)dW(u)ここからさらに、r(t) を t から T まで積分すれば、t 時における T 満期ゼロクーポン債のトータルリターンになります。解析プロセスは省略しますが、結果は下記のようになります。
∫Ttr(t)dt=−lnP(0,T)P(0,t)+σ2r4a3[e−2a(T−t)−e−2aT−1+e−2at−4e−a(T−t)+4e−aT+4−4e−at]+σr(e−aT−e−at)a∫t0eaudW(u)この値を (T-t) で割れば、年率表示のゼロクーポン債利回りとなります。また、この値の符号をマイナスにして指数を取れば、ゼロクーポン債価格になります。
上式の右辺の最後の項に伊藤積分が残っています。この項は、4.18式を使って、r(t)の式に変換できて
σr(e−aT−e−at)a∫t0eaudW(u)=(e−aT−e−at)a[−r(t)eat+f(0,t)eat+σ2ra2(eat−1)−σ2r2a2(eat−e−at)]となります。これを 4.19 式に代入すると、
∫Ttr(t)dt=−lnP(0,T)P(0,t)+σ2r4a3[e−2a(T−t)−e−2aT−1+e−2at−4e−a(T−t)+4e−aT+4−4e−at]+(e−aT−e−at)a[−r(t)eat+f(0,t)eat+σ2ra2(eat−1)−σ2r2a2(eat−e−at)]非常に長ったらしい関数形ですが、右辺から伊藤積分の項が消え、A(t,T)+B(t,T)×r(t) という r(t) のAffine関数(1次関数)の形になっています。すなわち、t→T 間の瞬間短期金利での運用の累計リターンは r(t) の Affine 関数で表現できました。
また、ゼロクーポン債価格の式は、下記のように r(t) の指数関数として表現できます。
P(t,T)=e−∫Ttr(t)dt=A(t,T)e−B(t,T)r(t) 但しB(t,T)=1−e−a(T−t)aA(t,T)=P(0,T)P(0,t)exp[f(0,t)B(t,T)−σ2r(e−aT−e−at)2(e2at−1)4a3]これで、瞬間短期金利 r(t) から t 時のゼロカーブと Discount Curve が描けました。